Architecte Esthète

美の建築家

ニコラ・クロワゾー

感動を呼び覚ます

最新作のアイデアをどこから得たかをニコラ・クロワゾーに尋ねたら、かつて経験したことのないほどのめくるめく感情の渦にさらわれるような思いをするに違いありません。ニコラ・クロワゾーはとても広い秘密の庭を持ったアーティストで、ディテールに裏打ちされたたくさんの感動が収められた本棚を自分の中に持っているのです。その本棚には、さまざまな思い出、風味、出会い、さらに欲求など、たくさんのものがしまってあり、そこからある日、これ以外にはないというものが形をとって出て来るのです。「人はみな心の奥底で思いがけない感動を探しているのです」。 
 
ありきたりの方法から離れて冒険してみること、新しく創り上げ、模倣しないこと、何ものにも束縛されない独創性を示すこと、流行に左右されないこと。ニコラ・クロワゾーは、ラ・メゾン・デュ・ショコラの才能豊かな演奏家であり、ラ・メゾン・デュ・ショコラのどんな小さな秘密も見逃すことなく心得ています。今から20年近く前にメゾンに入り、ロベール・ランクスに弟子入りして以来、ずっとメゾンから出ていないのです。彼の自在で巧みな手腕は、2012年以降、メゾンのすべてのクリエーションに刻まれる共通のしるしとなっています。
 
愛情、アート、そしてテクニック、二コラ・クロワゾーは自分とチョコレートとの関係をこのように形容します。両者の運命は分かち難く結び付いているかのように、彼の手にかかるとチョコレートは他のどんなものより生き生きとした表情をみせる原材料です。
細部へのこだわりとチョコレートに対する徹底した姿勢によって知られ、またそのことによって評判を高めた二コラ・クロワゾーは、2007年、誰もが羨む称号であるM.O.F.(フランス国家最優秀職人章)ショコラティエ部門を獲得し、トレンドを創り出す美の職人たちの輪の中に加わります。絶えず制約を打ち破り、鋭い観察眼と手先の動きの正確さに磨きをかけながら、わずか8グラムのチョコレートの中で感動に深いニュアンスを与える仕事に挑戦し続けています。
 

味わいが唯一の制約

クリエーションのパラドックスとも言うべきことは、感動を呼び覚ます作業が、何ものをも運任せにしない探求の作業であることです。ニコラ・クロワゾーによれば、明らかにおいしいと思う味わいの場合、カカオの分量は62%から68%になっていて、70%以上でおいしいと感じることはほとんどないといいます。その微妙なさじ加減は1%の違いも識別します。彼のカカオはフルーティで甘酸っぱいチョコレートのノートを奏で、黄色い果実や赤い果実、炒ったナッツ、ほとんどジャムに近い熟した黒い果実などを思わせます。二コラ・クロワゾーは意識を集中させてチョコレートとフルーツやスパイス、ハーブとの的確な配分を見極め、これ以外にはないという味わいを創り上げます。彼のチョコレート作りの中では、製品の味わいだけが重要なのです。チョコレートに課された制約を打ち破り、新たな味わいの地平を切り拓くこと。数にして1年に200に上る試作を重ねながら、彼は明日のチョコレートを夢見ています。
 
ガナッシュをさらに斬新なものにすること…、それは無謀な夢ではありません。チョコレートは、絶えざる革新の可能な場です。ニコラ・クロワゾーは、オーケストラの指揮者同様、ソーサーやクベルチュリエと密接に協力して、チョコレートの新しい活かし方を考え、画期的な方法を実験し、それまで存在していなかったものを創り上げています。「私はシンプルなものが好きです。しかし、そのシンプルさは、複雑さの回り道を通ったものでなければなりません」。チョコレートの常識も刷新すること…、そしてそれが長く保たれるようにすること。クロワゾーはシェフとしてのクリエーションの仕事の中で、定番レシピにも長年携わっています。甘さをさらに純化させて現代風にすること、ただしそれとはわからないように、定番の精神を損なうことなく、誰にも気付かれないように。砂糖を減らし、調味料は使わず、天然のものを大切にすること。クラシックな定番の地位を得るまでには何年も調整が必要ですが、ひとたび定番となれば長く続く宝ともなります。

 

 

Nicolas Cloiseau, Chef de La Maison du Chocolat
チョコレートの建築家

空気の抵抗

 

並外れていることを唯一の基準にしているニコラ・クロワゾーにとって、チョコレートはどんな気まぐれにも応えてくれる柔軟性を持った原材料です。彼のアート作品は、それ自体がひとつの芸術です。中空にこだわり、チョコレートに大小の穴を開け、透かしを入れ、レースを紡いで、これ以上ないほどの繊細な表現を生み出します。チョコレートにあらがうものは空気の抵抗だけとなり、あらゆる制約から解き放たれたすばらしい構築物の中に、光が封じ込められます。

完璧に仕上げられた細部からは、そのオブジェに込められた詩的精神が伝わってきます。それは創造的情熱と卓越した熟練技の表現であって、比類のないものです。
 
イースターとクリスマスのシーズンには、メゾンのために夢のような世界を創り上げます。オリジナルやカスタムメイドのピースを作りながら、それ自体が芸術的価値を持ったひとつのアートとして、チョコレートを愛するすべての人たちに作品を提示するのです。このようなオートクチュール的活動の中で二コラ・クロワゾーが私たちに見せてくれているもの、それは高級ブランドのクリエイターたちだけが育むことのできる夢の部分なのです。
 
これらの特別限定品は、専任のチームを組んで作成します。チームに加わったショコラティエたちはニコラ・クロワゾーの指揮の下、何週間にもわたって金銀細工師のように緻密な作業をこなし、束の間のデコレーションで飾られる特別限定品を創り上げます。

 

Jouer de transparence, créer du vide - Nicolas Cloiseau